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2005/12/17

沸騰 クライマーズ・ハイ〈後編〉

このブログでも、今週最も読まれたエントリは前編のレビューだったのですが、NHKにも反響が殺到した、と「土曜スタジオパーク」で放送していました。反響の大きさに、放送していなかった(!!)東北地方でも急遽、午後3時過ぎから前編をオンエアしたそうです。

きょうも期待を裏切らないテンションの高さでした。

前編のレビューです。
力作!クライマーズ・ハイ〈前編〉

4163220909クライマーズ・ハイ
横山 秀夫

文藝春秋 2003-08-21
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ドラマで熱くなれた方はぜひぜひ、原作も読んでいただきたいです。以下、感想を。

前編は編集局内の対立、記者たちの微妙な力関係や上下関係に力点が置かれましたが、今回は新たに綿引勝彦が販売局長として登場。「天までとどけ」シリーズでは温厚な記者役でしたが、一段と脂っぽい悪役ぶりがハマっています。でも、販売にはもちろん、販売の論理がある(詳述はしませんが)。

そして、入社3年目の記者が拾ってきた事故原因に関する大きな「抜きネタ(=特ダネ)」を巡り、編集局vs.販売局の深夜の大闘争になだれこんでいきます。

「圧力隔壁」という単語を拾って事故原因を隔壁の破壊とそれに伴う尾翼の損壊と判断した神沢記者に対し、悠木(佐藤浩市)は事故調査委員会の人間から裏(=言質)を取らなければ載せられないと指示。

一方、前日の現場雑観が第2社会面に落とされたことに納得できず、少し投げやりになっていたところに遺族が訪ねてきた。「ココは編集局だから関係者以外は出ていって」「新聞は下の自動販売機で買え」。社会部デスク・田沢(光石研)の心ないことばですが、こういうこと言う人、実際にいるから怖い。

遺族だと直感した悠木は発生翌日からの新聞を提供。「地元紙だったら地元の事件のことはいちばん詳しいと思った」「本当のことを書いてください」と言いおいて遺体と共に帰ってゆく遺族の女性と幼い息子を見て、悠木のクライマーズ・ハイは次の段階へと進んでいきました。

この日はトップ記事を地元出身の中曽根首相による靖国公式参拝をトップにして墜落事故を外すという方向だったが「地元紙は日航をトップから落としちゃいけない」と主張し、遺体安置所で撮影された1枚の写真を提起します。このへんは原作を読んでいないと若干説明不足ですが、アリでしょう。

地元紙が地元で起こった事件をトップで扱い続ける、という話に関しては、阪神大震災で本社機能が麻痺した神戸新聞が3月の地下鉄サリン事件までほぼ2カ月の間、震災関連記事を1面のトップに据え続けた、という話を聞いたことがあります。

神沢だけでは荷が重すぎると判断、県警キャップの佐山(大森南朋)を上野村に派遣する悠木。しかし、裏が取れないまま時間だけが経過。この時間の描き方も緊張感があってすばらしかった。日頃、あまり脚光を浴びることのない「整理記者」(見出しやレイアウト、記事の大きさを決定する記者)にもそれなりに焦点を当てていたのもよかったと思います。

特ダネは事故原因。対策本部が置かれている上野村や藤岡市に届く紙面に掲載されていなければ意味がない。販売局に有無を言わさないため悠木と社会部長の等々力(岸部一徳)は藤岡方面に行くトラックの鍵を隠します。納得いかない販売局が編集局に「殴り込み」。印刷している工務の現場までの大立ち回りになりました。

編集局の人間すべてに「クライマーズ・ハイ」が訪れた瞬間でした。気をつけないと滑稽になってしまうシーンですが、ものすごいパワーで押していきます。前編では煮え切らなかった編集局長(大和田伸也)や局次長(塩見三省)も"参戦"。

もうギリギリという時間になって佐山から連絡が入るものの、悠木は不意に冷めてしまいます。後で「お前は東京に負けたんじゃない、自分に負けたんだ」って田沢に言われてしまうのだけど…。前回「土下座しろ!」と叫んだ等々力(岸部)が、落胆する編集局員を前に土下座した悠木に「立て!死んでもそんな真似するんじゃねえ!」とまた怒鳴ります。これまた、圧巻。

悠木の最後のヤマは「命の重さ」という途方もない話になります。持ち込んできたのは望月彩子(石原さとみ)。読者欄に「人の命の軽重」に関する彩子の投稿を載せたことで新聞社には抗議が殺到。本当は、遺族からのクレームはなかった、というところが重要なのだけど、ザラ紙1枚のアップだけ、あとは電話でフォローというところが少し物足りなかったかも。

今回も社長(杉浦直樹)が恐ろしかったです。ふだん、温厚な役が多いイメージなのでこのギャップが凄い。「辞めるか、山間部で飼ってやってもいい!」と言い放ちます。前編は「デスク風情が」だったのが今度は「部長風情が!」と等々力も瞬殺。その社長の口から「新聞は読者のもの」「(記者は)キタカンの看板がなければ何もできない」ということばが出てくるのが、正論だけに皮肉すぎる…。

原作では佐山にもっと深みがあるし、お茶汲みとしてしか描かれていない「チヅちゃん」も、庶務の仕事から新聞記者に配属が変わることになり、彼女なりの悩みも描かれます。とはいいつつ、新聞記者であり続けることとは何か。「新聞紙をつくるのではなく、新聞をつくりたい」という叫びとラスト近く、「待ってる」と望月彩子に話しかける悠木の台詞、そして「どこにいても新聞はつくれる」という岸(松重豊)の言葉にも、重みと救いを感じました。

とはいうものの、あの事故から20年、報道による「大きな命と小さな命」の格差、そして「ニュースへの飽き具合」は、どんどん広がっていく気がしてなりません。

ラスト、悠木は衝立岩の登攀で親子の絆を確認することもできました。どんな形で撮影したのか、興味あり。

ことし、最終的に日本のドラマをあまり数は見ませんでしたが、間違いなくこれがナンバー1ではないかと。こういうドラマを見ると、受信料払ってもイイかな、って10秒くらい思うんだよね…。報道やバラエティの現場のお金の遣い方がデタラメなのを見ているので、払わないけど。

「半落ち」くらいしか読んでいなかったので、横山秀夫の最新刊も読んでみました。「クライマーズ・ハイ」以上に業界用語(警察関連)炸裂なのでかなり好みは分かれると思いますが、私は嫌いではありませんでした。
・横山秀夫の「震度0」

さらに。

4620105791レディ・ジョーカー〈上〉
高村 薫

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新聞記者を描いた作品でいえば私はコレに勝るものはないと思っています。出版から年月は経っていますが、まったく色あせていません。地方紙の北関東新聞社に対し、東京を拠点とする大新聞の記者たちが苦悩します。「クライマーズ・ハイ」は大事故ですが、レディ・ジョーカーは企業の社長の誘拐(グリコ森永事件が題材と言われています)、それにまつわる社会の暗部との対決。高村薫は「サンデー毎日」への連載執筆にあたり、毎日新聞を綿密に取材しました。

佐山たちが地を這うようにして「裏取り」をしていたのに対し、さらっと警察のネタ元に電話して裏が取れたりするところはちょっと納得いかないよね、と話したことはありますが、扱っているテーマがダイナミックなのは高村薫ならでは、だと思っています。

「クライマーズ・ハイ」の原作を読んだら、こちらも是非。

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コメント

しずくさん、初めまして。コメントありがとうございます。

ここは「廃墟」のため、しずくさんのブログにお邪魔してみたのですがトラフィックが比較的軽い時間かと思うのですがなかなかページが開かず、お返事ができないでいます。

また近いうちにあきらめずに挑戦しますのでよろしくお願いいたします。

投稿: ruko | 2006/12/11 02:30

今さらになるかもしれませんが、書きたくなるような強烈なドラマでした。
トラバさせてもらおうかと思いましたが、なぜか出来ず。
(実は、いくつも行ってたりして?そのときは、すみません・・・)
なので、はらせていただきますね。。。
http://shizuku-drama.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_802b.html

投稿: しずく | 2006/11/20 14:20

うだじむさん、こんばんは。

「レディ・ジョーカー」。高村薫の作品はたぶんすべて読んでいますが、これがナンバー1。そして次に「リヴィエラを撃て」そして「天の火」の順に好きです。「レディ・ジョーカー」はこの前映画版を見て死にたくなりました…。ある程度予想はしていましたが石原軍団、ヒドますよ。

「リヴィエラ」は翻訳して英語にすれば、ハリウッドの娯楽作品として通用する作品じゃないかと思ってるんですけど…。70年代のテレビドラマのリメイクより全然いいはずw

投稿: ruko | 2005/12/18 23:59

こんばんは
レディージョーカーもいいですねー。
高村薫の社会派ミステリーも好きです。
レディーはグリコ森永事件がモデルになってます。
クライマーズ・ハイの少し前に起こった事件でしたね。
一時期、グリ森のルポを読みまくった覚えがあります。

投稿: うだじむ | 2005/12/18 22:05

Gun0826さん、こんにちは。

>>悠木がスクープを落とした感じ
そうですね。よそが書いてくるかもしれない、という重圧もあったとは思いつつ…。こういうギリギリのときにキツイ決断ができる人がいれば、松本サリンの「冤罪」は発生しなかったんじゃないか、などと思います。

大手のマスコミは程度の差はあれ、どこもいま、硬直の度合いがかなり進んでいます。悠木の台詞を聞いても、どうしようもないですよ、恐らく。

投稿: ruko | 2005/12/18 11:34

トラバとコメントありがとうございました。
後篇も非常に見応えありました。大人が大人の
ために作ったドラマ、というような重量感が
ありました。
俺には悠木がスクープを落とした感じが
なんとなくわかった気がしたんですが、勝手な
解釈かも。
エントリ中の「新聞紙をつくるのではなく、新聞をつくりたい」というセリフはとてもよかったですよね。
朝○新聞の、いや現状のマスコミ各紙誌の記者全て
に聞かせてやりたいセリフでした。

NHKもうダメかなと思ってた時にこのドラマを
やってくれて、なんか嬉しくなりました。
作り手側も、今回の作品は挑戦だったのかもしれませんね。

ちなみに、岸壁の撮影は特殊な三脚を使ってやって
るそうです。新年のドラマ「氷壁」でも同様の技術を
使っているそうです。

投稿: Gun0826 | 2005/12/18 01:25

うだじむさん、こんばんは。

年末に話題をさらいましたねー。反響の大きさにちょっと驚いています。今夜もアクセスが多く、驚いています。

原作、私も読もうとしたのですが「震度0」を仕入れてしまったので後回しになっています。横山秀夫を連続で読むにはちょっと体力気力が必要ですので(笑)。

ほかの作品もますます気になってきました。うだじむさんが書いてらした文庫版の本も読もうと思っています。

投稿: ruko | 2005/12/18 00:33

こんばんは
後編も面白かったですねー。
最近ドラマをあんまり見てなかったんですが、見て正解でした。
マスコミの凄さと体質が良く出てました。
背景にあるテーマは重いですが、そんなことを抜きにして、面白い。
原作を読み直したんですが、改めていい小説ですね。
新作が待ち遠しくなってます。

投稿: うだじむ | 2005/12/17 23:18

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今日俺が夕方のビックカメラで装着変身を買おうと並んでたら、後ろのお父さんが奥様に「今日あれ、何時からだっけ。あの、日航の」と言っていた。かなり見たがっている様子だった。 よいドラマは人を惹きつけるんですな。ちょっと嬉しくなった。 という事で後篇を観ました。 前編が神懸かり的な出来だっただけに大団円にしなくてはならない後篇はそれだけ不利。 連続ドラマは最終回の1話手前が一番面白いってのは定説ですわ。 2chドラマ板でも販売部とのいさかい・スクープ飛ばしの後トーンダウンした、という意見が大... [続きを読む]

受信: 2005/12/19 14:13

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