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2005/12/14

市川崑の「戦艦大和」

夏、「戦後60年特集」ということでさまざまな映画やドラマを放送してたスカパーの日本映画専門チャンネルで、市川崑監督・脚本の「戦艦大和」(フジテレビ、1990年制作)の最後の放送をたまたま途中から見ました。

マーラーの交響曲5番をアレンジした音楽を使っていて、戦闘シーンで白黒の映像を使ったり、そのシーンもあっという間にバタバタと登場人物が死んでしまったりと、いっぷう変わったつくりが印象に残っていたのだけど、DVD化はされていませんでした。セルビデオもレンタル版のみしかなく、最初から見たかったのですが、ようやく見ることができました。

4061962876戦艦大和ノ最期
吉田 満

講談社 1994-08
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まだ2回(17日、27日)放送される予定なので、CSを見るのが可能だったら、ぜひ見ていただきたいと思いました。週末から公開される、長渕剛が主題歌歌うアレじゃなくて。以下感想です。

最初から見て驚いたのは150分(2時間半)のドラマのうち出撃の数日前から敵の攻撃を受けるまでに2時間近くを割いていたこと。吉田満さんと思われる「吉岡少尉」(中井貴一)を語り部として、淡々と大和の乗組員たちを登場させ、それぞれを流暢に喋らせます。

最も心打たれたのは、登場人物たちがかわす日本語が、とても美しかった点。「水上特攻」なので、できるだけ降ろせる人間は降ろす、という判断から傷病兵などを降ろすにあたり、有賀艦長(上條恒彦)がかける「ごきげんよう」に始まり、なぜ自分たちは死ぬのか、といった議論を真剣にかわす若者たちも、正確できれいな日本語で話しています。

もちろん15年前に制作されたドラマなので、2005年版の「大和」(なぜ大和をローマ字で表記せねばならぬのか…orz)に比べれば、艦橋は絵とセットを合成していると一発でわかってしまうし、艦長の訓示のとき、後ろに並んでいる乗組員たちも絵だし、出航する大和や、横を飛ぶ特攻機のミニチュアはちゃっちいです(苦笑)。

けれど、そんな違和感は小さなことと感じさせるドラマになっていました。

いかに大和の出撃が愚かな判断からくだされたものなのか。沖縄戦も敗色が濃く、本土決戦となれば海軍の出番がもう、ない。海軍の象徴でもある「大和」を、海軍のメンツにかけて最後の戦いに送り出し、航空機による特攻攻撃を援護させる、というのが「天一号作戦」。

その無謀さを理解しながらも淡々と死に向かった第2艦隊の伊藤聖一長官(仲代達矢)や森下参謀長(石坂浩二)、吉岡の先輩のウスミ大尉(川野太郎)たち。死ぬつもりはなくても「大和」の乗組員である以上危険にさらされる軍医長(伊東四朗)や電測兵(所ジョージ)。兵学校出身の生え抜きと、学徒動員の若手将校たちの対立と苛立ち、日系二世の苦悩、特攻隊などなど、舞台劇を見ているようにストーリーが進んでいきます。

だから、戦闘シーンで内臓が飛び出したり、手足や頭が吹っ飛んだりしなくても、一人ひとりいろんな思いをもち、語っていた人間がいとも簡単に死んでいくのが戦争である、という事実がひりひりと感じられました。

最期のときを迎えた大和の艦橋で、自分たちも残るという吉岡少尉らに対して「若い者は、生きろ!!」と絞り出すように言ってイヌイ少尉(仲村トオル)を殴る有賀艦長に、泣きました。出航する前に、まだ幼い子どもが4人いる、という会話を伊藤長官としています。そのときに、この出撃に納得がいかない、とも主張していました。「艦長は艦と運命を共にする」といっても、超がつくほどの「犬死に」なのに。

戦争モノにありがちな、後に残る女たちを「ドラマの華」とすることもありません。女性の登場人物は日系二世の中原少尉(近藤真彦)の母(森光子)と、イヌイ少尉の婚約者(それも写真)だけ。

印象に残るシーンが3カ所ありました。日本の敗戦を確信しているウスミ大尉の「日本は進歩を軽んじすぎた。進歩のない者は決して勝たない。敗れて目覚める。それ以外にどうして日本が救われるか」の言。そして、甲板で吉岡少尉に出会う森下参謀長の「俺は、この戦闘に全力を投じている。それはな、これからの日本の進むべき最も良い方向を見いだすことにつながっているのだ。それには、人誰しもが、その立場でなし得る限りの役割を果たすことしかない」。家族ももたず、海軍士官であることに誇りを持って生きてきた男性の"遺言"です。

そして最後に戦後、森光子母がしみじみと語る「あの子が夢見たような、よい国になるのでしょうね」というひとこと。改めて考えさせられます。

日本は第二次大戦のたくさんの犠牲から、何を学んだのでしょうか?進歩したのでしょうか。いま、日本人は自分の立場でなし得る限りの役割を果たし、ベストを尽くしているのでしょうか。そして、日本は戦争をする前と比べて「よい国」になったのでしょうか?

【追記】クレジットのラスト、制作にフジテレビだけでなく「東宝」と入っていた理由が疑問で、調べてみました。市川監督は「細部までリアリティにこだわって『戦艦大和』をつくりたい」として当初は映画にする予定だったのが、資金不足から計画が頓挫し、テレビドラマになったそうです。

【追記2】「戦艦大和ノ最期」を含む吉田満さんの著作をまとめた本についてのレビューを書きました。コチラから。

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コメント

tantarmさん、こんばんは。お忙しそうなのに、コメントありがとうございます。

1990年と2006年、15年の時を経て何が違うかというと、きっと制作現場に戦争を体験した人がまったくいなかったりするのでは、と思います。

原作の「戦艦大和ノ最期」は学生のときに読んだのですが、当時は今回読んだ時ほど正直、切実に感じませんでした。痛ましさはもちろん痛烈にありましたけど。時が流れ社会人になった今読むと、まったく違ったメッセージを感じたことも事実でしたし。

80年代後半のフジテレビでは、これも中井貴一の主演ですが「失われた時の流れを」など、戦争を描いた秀逸な単発ドラマがいくつか記憶に残っています。連続ドラマと異なり、単発ドラマはなかなかDVDなどになりにくいと思うのですが、機会があったら見ていただきたいなぁと思います。「男たちの大和」との比較なども興味がありますね。

投稿: ruko | 2006/01/20 01:05

こんばんわ。
トラックバックありがとうございます。
訪問が遅れまして申し訳ありません…m(_ _;)m !

敗れて目覚める、未来への礎になると言う考え、今の日本人がなくしてしまった、生きる意味、自分の役割、そしてそれら意義を、当時の人たちはわかっていたのだと思います。

15年前なら、今と比べた時、映像技術は稚拙だったでしょうが、それを補ってあまりある程の魅力があるドラマだったのだと思います。
むしろ、完璧な映像技術じゃなかったからこそ、“裸”のドラマがよく見えたのじゃないかな、と思いました。

エントリーを読んで、僕も見てみたくなりました。

投稿: Tamtarm | 2006/01/20 00:05

リサさん、はじめまして。コメントとTBありがとうございます。

リサさんもダイバーなのですね。私は沖縄の海が大好きで、50本以上潜っていますが、時々沖縄の海は大和がたどり着きたかった海なのだと思い出すことがあります。

レビューなどを読むと「死に様」がキレイすぎるといった批判もありますが、キャスティング(実際の方たちとのギャップなどは別として)なども含め、私にはこちらの「大和」のほうがしっくりくる感じです。

時間が経過しても失った人は帰って来ない。そして、その人たちを悼む気持ちに風化はないのでしょうね…。

投稿: ruko | 2005/12/22 01:08

こんばんは。はじめまして。
戦艦大和・・かなり前に見てからずーっと心に
残っていました。今でも忘れられなくてまた見たいと思っていました。今回のヤマトのロケセット
へ足を運びました。巨大さの一部をセットではあるけど見せつけられたようでした。高齢の方がいらしたんですが菊の御紋に一礼をしていたり涙をぬぐわれてた方もいました。60年経とうが生きている人にとっては昨日のことのようなのかと
心がしめつけられる想いでした。

投稿: リサ | 2005/12/21 00:40

喜六さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

15年前に見ていたらまた全く別の感想を持ったと思いますし、感じ方は人それぞれかな…という気もしますが、小さな女の子たちが次々に殺されたり、マンションの鉄筋を抜いてコストを下げる事件など、日本が「いい国」になったとは思えない気がして仕方ない昨今なので(もちろん、戦時中の軍国主義を肯定するわけではありません)…。

喜六さんのブログものぞきに行きました。スカパーの件、実は失念していまして早速「よくばりパック」に契約し直したところです。ありがとうございました!

投稿: ruko | 2005/12/14 20:38

はじめまして
これ放送当時に見たのを覚えています。市川監督のファンで、彼が演出したと言うことだけでみていたのですが、うーん、こんなメッセージがあったとは。

投稿: 喜六 | 2005/12/14 20:14

ぐるくんさん、こんばんは。
ドラマの本当に最後の会話は「日本の海は澄んで、きれいですなぁ」という日系一世の母に対して吉岡少尉が「沖縄の海は、もっと深い青色でした」と言って終わります。

市川監督は「究極のリアリズム」を求めたらしいのですが、やはり予算の関係でそういうわけにはいかなかったそうです。ただ、フネがリアルではなくて私はむしろよかった、と思いました。

ダイビングを始めるまで、長い間沖縄に行くことに抵抗がありました。戦争の傷跡が残り、いまも米軍基地を抱えている沖縄に遊びに行く、ということがイメージとして湧かなかったからです。もう10数回沖縄には行っていますが、折に触れてそのことは思い出さざるを得ません。

「戦艦大和ノ最期」はその後調べた所、救助された後の描写について事実に反するのではないかといった議論もあり、一方的に賛美する内容でもないのかもしれませんが、大多数が海の底へ沈んでしまったなか、生還した方の声は、真摯に聞かねばならないのだと思っています。

投稿: ruko | 2005/12/14 20:07

 rukoさんの感性に改めて敬服・・・
 
 大和の「水上特攻」って、不沈艦の大和を沖縄の浅瀬にわざと座礁させて、要塞代わりにすると言う、全く愚な作戦だった。 

 終戦から60年、戦争を知らない世代が殆どとなった今、歴史を知り、明日を託して散った人達の想いを真剣に考えなければいけないな~と思いました。

投稿: ぐるくん | 2005/12/14 10:44

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